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五年後(南郷『アカギ』)



「死ねば助かるのに」


あの言葉が耳から離れない

思い返してみるにあの時ほど幸福なときはなかったのではないか
南郷はいまでもそう思う
よくよく考えてみればあの喉元に匕首を突きつけられたような
幸運もへったくれもない状況下で出会った少年がその女神だった
という馬鹿げたシチュエーションがまさに地獄に仏であったし愉快でもあった
(事実一歩間違えれば死ぬところでもあったのだから)
元々自分の人生勝負だったモノがあの稀有な少年の生き方を変えた と思うと自然と胸が高鳴る

幾度か死線を越えてきたはずの冷めた目 自分の身を可愛がらない無頓着さ 生きる事への執着の無さ
どれをとってみてもまったく別の世界に身を置いてる彼の


あのあらしの夜 生と死を切り取ったような昏い眼に出会った瞬間心臓を鷲掴みにされた気がした
この先どんな体験をしたとしてもあんな眼はできないしそうなりたいとも思わない

しかし日常のあいだに垣間見る闇に憧れるのは人間の常でありその闇の中で輝く人間を見てしまった場合は不幸としか言うほかあるまい

もう忘れる事もできないのだ 多分


南郷は取り留めのない思索を打ち切り煙草に火を点けた
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by kanan-m | 2006-02-28 23:59 | ◆妄想駄文